産業財産権Q&A

Q69

当社は文房具メーカーです。新製品について他社の特許権等を侵害していないか心配です。特許調査はどのように行えばいいのでしょうか。

A

 まず、その新製品の特長、すなわち新しいところを特定して、特許権、実用新案権等を対象に調査を行うべきである。製品全体を対象にして漠然と調査を行うことは難しいことが多いと思われる。

 解りやすい事例として鉛筆を対象に説明する。

(1)軸が六角柱となっている。

(2)軸の上端に消しゴムが付いている。

(3)黒鉛と粘土の割合を変えることで芯の濃淡を調整する。

 が調査の対象になると考えられる。

(特許調査における注意点)

 このように構造が簡単な鉛筆でも複数の調査対象が存在することも珍しくない。従って、その製品の新しいところを特定して調査対象を絞り込む必要がある。メーカーであれば、当該分野の製品についての情報・知識があるので、調査対象を絞り込むことができるのではないだろうか。例えば、上記の(2)(3)は20年以上前から複数のメーカーが製造、販売しているから(1)だけを調査対象にしようということができるわけだ。

 調査対象を絞り込んだら、特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)などのデータベースを検索して調査を行う。調査方法は【発明の名称】【請求の範囲】等にキーワードを入力したり、【国際分類(IPC)】【FI】などに該当する技術分野のアルファベットと数字の組み合わせを入力したり、これらを組み合わせて、該当すると判断される特許権等を特定する。

 我が国の特許出願は年間約30万件、実用新案登録出願は約5千件あり、特許権等を特定するのは専門家でも難しいことが少なくない。従って、漏れのない調査を行おうとすれば、調査範囲をある程度広げる必要があり、相当な労力がかかることも珍しくない。

 特許出願は原則として出願日から1年6ヶ月を経過しないと公開されないので、この1年6ヶ月分の特許出願は調査範囲とすることができない。また、実用新案登録出願も出願日から3ヶ月程度経過しないと公開されないので、特許出願と同様のことになる。

 また、特許出願は出願審査請求、すなわち審査開始のお願いの手続を行わないと審査されない。この出願審査請求を行うことができる期間は出願日から3年なので、未審査の特許出願が多数存在する。また、実用新案登録出願は未審査で登録され、考案の新規性や進歩性等があるかどうかを特許庁に問う技術評価請求を行うことは実用新案権者の任意なので、形式的に登録されている実用新案権も多数存在する。言わば、白黒決着の付いていない特許出願、実用新案権が何十万件も存在している。

 更に、特許権等が有効に存続しているかを確認する必要がある。特許権の存続期間は原則として出願日から20年であり、存続期間が満了すれば特許権は消滅することになる。存続期間が満了する前でも維持料を納付しないと、消滅することになる。また、特許出願は前述の出願審査請求を行わないで、出願日から3年を経過すると取り下げられたものとみなされて、権利化されることがなくなる。

 実用新案権の存続期間は出願日から10年であり、特許権と同様に存続期間が満了する前でも維持料を納付しないと消滅することになる。

 更に、ライバル企業からの特許異議の申立て、特許無効審判、実用新案登録無効審判によって権利が消滅することもあり得る。

 従って、特許権等が有効に存続しているかを確認することは必須である。

 このように、完全な特許調査を行うことは難しいと考えていいだろう。ただし、これは特許調査を行うことが無意味であるということを言っているのではなく、特許調査は正確な知識と情報を得た上で行わなければならないということなのだ。

(侵害であるか否かの判断)

 特許調査により特許権等が抽出できたら、この特許権等の特許請求の範囲の請求項に記載された特許発明と、当社の鉛筆とを比較する。当社の鉛筆が請求項に記載された特許発明の構成要件の全てを具備していれば、特許権侵害となる。

 例えば、請求項に「軸を六角柱状とした鉛筆」とあれば、当社の鉛筆はこの特許権を侵害することになる。ここで注意すべきは請求項に「軸を五角柱状とした鉛筆」または「軸を七角柱状とした鉛筆」と記載されていた場合でも、特許侵害となる可能性があるということだ。均等論という考え方があり、当社の鉛筆と特許発明がズバリ同じでなくても、内容がかなり似ており同じ効果(鉛筆が転がり難い。)を発揮する範囲については特許権の範囲を広げて解釈するという考え方だ。また、請求項に「軸を多角柱状とした鉛筆」とあれば、これは六角柱状だろうと五角柱状だろうと特許権の範囲に含まれることになる。「多角柱状」は「六角柱状」や「五角柱状」の上位概念だからだ。

  なお、鉛筆がデザイン的にも特徴がある場合は、意匠権も調査すべきである。

(令和2年2月)