産業財産権Q&A

Q44

当社は食品機械メーカーですが、同業のメーカーであるA社と魚の加工機について共同開発を行い、その加工機を完成させました。ところが、A社から共同開発した加工機については自社で特許出願したことを聞きました。当社でこの魚の加工機を製造、販売することについて問題が発生することはないのでしょうか。共同開発に関する契約書の類は交わしていません。

A

 まずは、A社の特許出願の内容などを確かめる必要がある。特許出願は出願日から1年6か月を経過していれば、特許電子図書館(IPDL)で内容を見ることができる。A社の特許出願の内容が共同開発の対象となっている魚の加工機に関するものなのかを確認する。
 また、その特許出願が現在どのようになっているのかを確かめる。特許出願は特許庁に書類を提出しただけでは審査されず、出願してから3年以内に出願審査請求手続をしてはじめて審査にかけられる。この出願審査請求をしないまま出願してから3年経過すると、その特許出願は取り下げられたものとみなされることになる。
 また、出願審査請求がされていても、特許庁の審査で拒絶査定(審決)が確定していれば特許権は取得されないことになる。審査で拒絶理由通知が出されている場合でも、審査官の拒絶理由に反論する意見書を提出したり、出願当初の範囲内で内容をやりくりする補正書を提出したりすることで、拒絶理由通知が覆ることもあるので注意が必要だ。そのほか、拒絶査定に対しては上級審である拒絶査定不服審判を請求して争うことができる。従って、特許出願が現在どのようになっているかを正確に把握するため、IPDLで調査したり、特許庁から出願に関する書類を取り寄せたりすることが必要となる。
 特許出願(特許権)の内容が、自社が魚の加工機を製造、販売することに支障があるようなものである場合は、A社と話し合いをもち、出願(権利)の一部を譲渡してもらう手もある。例えば、特許権を一部譲渡してもらうことで、自社とA社との共有の権利とすることができれば、自社はA社の承諾を得ることなく、その魚の加工機を製造、販売することが可能となるからだ。
 また、先使用権を主張するための資料を収集しておくことも考えるべきである。A社の特許出願の際に、自社がその魚の加工機の実施(製造、販売)または実施の準備をしている場合は、先使用権を主張することが可能だ。従って、A社の特許出願の出願日を確認することが必要である。
 どうしても、A社がその特許権によって魚の加工機の製造、販売を阻止しようとするような場合は、特許無効審判を請求することも考えられる。特許を無効にすると、第三者がこの魚の加工機を製造、販売できるようになってしまうので、A社から特許権の一部の移転を請求する手続を行うことが賢明である。
 このような問題が生じないように契約書を交わすようにして、この契約書に「特許出願等を行うときは互いに書面によって内容を提示して、承諾を得てからでなければ出願を行うことはできない。」などの条項を入れておくべきである。