産業財産権Q&A

Q34

佐藤食品工業の「切り餅」が越後製菓の特許権を侵害しているとして、損害賠償を認めたとのニュースを見ましたが、どのようなことなのでしょうか?

A

(1)今回、ニュースになったのは、知的財産高等裁判所(以下、知財高裁という。)の判決である。一審東京地方裁判所においては特許権を侵害しない旨の判決が出され、更に上級審である知財高裁で争われて一審判決が覆される結果となった。

(2)本件特許の特許請求の範囲の請求項1には、「焼き網に載置して焼き上げて食する輪郭形状が方形の小片餅体である切餅の載置底面又は平坦上面ではなくこの小片餅体の上側表面部の立直側面である側周表 面に、この立直側面に沿う方向を周方向としてこの周方向に長さを有する一若しくは複数の切り込み部又は溝部を設け、この切り込み部又は溝部は、この立直側 面に沿う方向を周方向としてこの周方向に一周連続させて角環状とした若しくは前記立直側面である側周表面の対向二側面に形成した切り込み部又は溝部として、焼き上げるに際して前記切り込み部又は溝部の上側が下側に対して持ち上がり、最中やサンドウイッチのように上下の焼板状部の間に膨化した中身がサンドされ ている状態に膨化変形することで膨化による外部への噴き出しを抑制するように構成したことを特徴とする餅。」と記載されている。

 構成要件とは請求項に記載された内容のことで、この構成要件すべてを被告製品が具備していて特許権侵害が成立することになる。言い換えれば、原則として構成要件が1つでも抜けていれば侵害が成立しないことになる。

 主な争点は、「切餅の載置底面又は平坦上面ではなく…複数の切り込み部又は溝部を設けたこと」の解釈である。

 佐藤食品工業の主張は、本件特許は「載置底面又は平坦上面ではなく」は「載置底面又は平坦上面に切り込み部等が存在しない」ことを意味し、これを構成要 件としているのだから、「切餅の載置底面や平坦上面に切り込み部等が存在する」被告製品は特許権を侵害していないというものである。

 越後製菓の主張は「載置底面又は平坦上面ではなく」は、「側周面に切込み部等が存在する」ということを明確にしている(強調している)だけであり、「側 周面に切り込み部等が存在する」被告製品は「切餅の載置底面や平坦上面に切り込み部等が存在する、しない」に拘らず、特許権侵害に該当するというものであ る。

 一審では佐藤食品工業の主張が通り、控訴審では越後製菓の主張が通ったかたちになったが、今後の展開がどのようになるか興味深いところである。

 

切り餅