産業財産権Q&A

Q59

プラスチック成形品を製造するための特殊な射出成形用金型を開発したので法的保護を図りたいと思っていますが、どのような方法があるでしょうか。

A

(1)まず、特許出願または実用新案登録出願を検討すべきである。

 特許、実用新案登録はいずれも技術的アイデアを保護対象としており、プラスチック成形用金型に技術的な工夫がある場合は特許出願または実用新案登録出願の対象になり得るかを検討するべきである。また、プラスチック成形品そのものについても特許、実用新案登録の保護対象になり得る技術的アイデアがあるか否かも含めて検討を行うべきである。

 特許と実用新案登録は特許庁へ出願を行うことで取得する権利であるが、制度の仕組みが種々の点で異なるので、この点を説明する。

(保護対象)

 特許は技術的アイデア全般が対象となる。実用新案登録は物品の形状、構造又は組合せに係るものが対象となり、方法のアイデアは対象にはならない。

 従って、特許ではプラスチック製品、その射出成形用金型、射出成形方法のいずれも保護対象になるのに対し、実用新案登録ではプラスチック製品、射出成形用金型は保護対象になるが、射出成形方法は保護対象にはならない。

(審査)

 特許出願は審査官の実体審査にパスしないと権利取得できないのに対し、実用新案登録出願は実体審査なしで権利取得ができる。

 特許については、出願の全てが審査されるのではなく、出願審査請求が為されたものだけが審査される。そして、出願対象の発明が新規性を有するか(客観的に新しいかどうか)、進歩性を有するか(その道の通常の専門家(当業者)が、特許出願時の技術水準から容易に考え出すことができない程度のものかどうか)等の実体審査が行われて、この実体審査にパスすることを条件に特許が付与されることになる。

 実用新案登録出願については、出願審査請求はなく、簡単に言えば出願書類が形式的に整っていれば、実体審査を行うことなく実用新案権が付与されることになる。極端なことを言えば、他人が全く同じ内容の実用新案権を取得していても、それとは無関係に実用新案権が付与されることになる。すなわち、同じ内容の実用新案権が併存することもあり得るということだ。

(権利行使)

 特許権は、権利を侵害する者に対して損害賠償請求権、差止請求権等の権利行使をすることができる。

 実用新案権は、実用新案技術評価書を提示して警告をしなければ、権利行使をすることができないことになっている。実用新案技術評価書とは、特許庁による考案内容に対する評価を示したものであり、実用新案技術評価書には新規性、進歩性等に関する判断結果が記載されている。この判断結果が実用新案権者にとって有利なものでなければ、実際には権利行使は難しいことになる。前述のように実体審査を行うことなく実用新案登録されるため、権利行使に条件を設けているのだ。実用新案技術評価書は実用新案権者等により技術評価請求を受けて、審査官が作成する。

 (存続期間)

 特許権は出願日から20年であり、実用新案権は出願日から10年である。

 いずれの権利も特許庁に維持料を納付しないと、途中で消滅することになる。

 

(2)意匠登録出願も検討するべきである。

 プラスチック成形品、その射出成形用金型が意匠登録の対象になるか否かを検討する必要がある。
 意匠登録は、物品(物品の部分を含む。)の形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合であって視覚を通じて美感を起こさせるものを保護の対象とする。
 プラスチック成形品、その射出成形用金型の形状等が特殊なものである場合は、意匠登録の対象になる可能性があるので、意匠登録出願を検討するべきである。
 特許、実用新案登録がプラスチック成形品、その射出成形用金型を技術的アイデアとして捉えて保護するのに対し、意匠登録はデザインとして捉えて保護するものである。
 意匠権の存続期間は登録から20年である。

 

 以上説明した特許、実用新案登録及び意匠登録の各制度の特徴を勘案して、特許、実用新案登録、意匠登録の各出願を組み合わせることでプラスチック成形用金型等について適切な保護を図ることが可能となる。

 

 

知って得する 特許・商標の知識 vol.35 (平成30年2月)